斜線制限とは
今回も本コラムをご覧いただきありがとうございます!
今回のテーマは「斜線制限」についてです。
斜線制限は「道路斜線」「隣地斜線」「北側斜線」の3つに分類されています。
今回はその3つについて詳しくご説明していきます。
斜線制限とは
斜線制限とは、日当たりや風通しを確保するために設定されている制限です。
地面または地面から一定の高さを基準として斜線(決められた角度の線)を引いて、
その斜線を超える範囲には建物を建ててはいけない、というものです。
斜線制限を無くしてしまった場合、近隣の通風や採光を無視して、日陰が大きくなるような建物がどんどん立ち並んでしまいます。
すると、道路や周りの土地にも陽が当たらず、街の良好な環境を保つことができなくなります。
また、道路斜線制限では、火災時にはしご車が適切に活動できるようにするためともいわれています。
そういった事態を避けるために、建物の高さや日当たりに関する様々な制限が定められています。そのうちの一つが「斜線制限」です。
道路斜線制限について
道路斜線制限とは、接している道路の幅員にもとづいて、道路側に面した建物部分の高さの制限です。
道路への採光や通風を確保することで、同時に周辺の建物の採光や通風を確保することができます。
前面道路の反対側の境界から敷地に向かって一定のルールに従い斜線を引き、その斜線の中に建物が収まらなくてはいけません。
- 【住居系用途地域の場合】
道路の反対側の境界から1:1.25の斜線内 - 【商業・工業系の用途地域の場合】
道路の反対側の境界から1:1.5の斜線内
異なる用途地域にまたがっている場合
一つの敷地に異なる用途地域が混在している場合、道路斜線制限はそれぞれの用途地域ごとに適用させなくてはなりません。
次の2つのパターンで、適用の仕方が少し違うので、それぞれに見てみましょう。
- 用途地域の境界線が道路と直行している場合
- 用途地域の境界線が道路と平行になっている場合
用途地域の境界線が道路と「直行」の場合
次の様に用途地域の境界が道路に直行している敷地を仮定して、道路斜線制限がどうなるか見てみましょう。
まずはこの敷地の容積率の上限を計算します。
計算式は次の通りです。
容積率=(Aの面積×Aの容積率+Bの面積×Bの容積率)/敷地全体の面積
Aの面積は160㎡
Aの容積率は400%ですが、前面道路が6mなので、6×6/10=36/10
元々設定されていた容積率より小さいので、360%が採用されます。
Bの面積は240㎡
Bの容積率は150%ですが、前面道路が6mなので、6×4/10=24/10
元々設定されていた容積率の方が小さいので、150%が採用されます。
それぞれの数字を式に代入します。
容積率=(160×3.6+240×1.5)/(160+240)= 936/400 =2.34
という事で、敷地の容積率の上限は234%になります。
Aの「近隣商業地域」では
- 傾斜勾配=1.5
- 適用距離=20m
Bの「第二種住居地域」では
- 傾斜勾配=1.25
- 適用距離=25m
わかりやすく立体にするとこの様になります。
用途地域の境界線が道路と「平行」
今度は、次の様に用途地域の境界が道路と平行になっている敷地を仮定して、道路斜線制限がどうなるか見てみましょう。
この場合の一番のポイントは、道路に接している用途地域の適用距離を適用するという事です。
先の例と同じように敷地全体の容積率の上限を計算します。
Aの面積は160㎡
Aの容積率は400%ですが、前面道路が6mなので、6×6/10=36/10
元々設定されていた容積率より小さいので、360%が採用されます。
Bの面積は240㎡
Bの容積率は150%ですが、前面道路が6mなので、6×4/10=24/10
元々設定されていた容積率の方が小さいので、150%が採用されます。
容積率=(Aの面積×Aの容積率+Bの面積×Bの容積率)/敷地全体の面積
の式に、それぞれの数字を式に代入します。
容積率=(160×3.6+240×1.5)/(160+240)= 936/400 =2.34
という事で、敷地の容積率の上限は234%になります。
道路に接しているのはBの第二種住居地域なので適用距離は25mになります。
傾斜勾配はそれぞれの用途地域ごとに
Aの近隣商業地域は1.5
Bの第二種住居地域は1.25
わかりやすく立体にするとこの様になります。
隣地斜線制限について
隣地境界線より一定距離外側の線上の高さ20m又は31mの位置から建築物の敷地の上空に向かって、
用途地域別に定められた勾配で斜線を引きます。
そして建築物を建てるときは、その斜線より内側に建てなければいけないということを隣地斜線制限といいます。
隣地斜線制限の緩和について
隣地斜線制限には「セットバック」「水面」「高低差」の3つの緩和があります。
それぞれ説明していきます。
隣地斜線のセットバック緩和
建築基準法施行令では隣地斜線のセットバック緩和について次のように記載されています。
当該建築物の隣地境界線からの後退距離(同号に規定する水平距離のうち最小のものに相当する距離をいう。以下この号において同じ。)が、前号の隣地高さ制限適合建築物と同一の隣地高さ制限適合建築物(同項第二号イ又はニに定める数値が一・二五とされている隣地高さ制限適合建築物にあつては高さが二十メートルを、同号イからニまでに定める数値が二・五とされている隣地高さ制限適合建築物にあつては高さが三十一メートルを超える部分に限る。)の隣地境界線からの後退距離以上であること。
住宅系の用途地域では20m、その他の用途地域では31mよりも高い部分を隣地境界よりセットバックさせると、
その距離に応じて制限が緩和されます。
本来の隣地境界線よりも、セットバックした距離と同じだけ、隣地斜線を外側に移動させる事ができます。
この図の場合、黄色の部分が緩和された事になります。
隣地斜線の水面緩和
建築基準法施行令では隣地斜線の水面緩和について次のように記載されています。
建築物の敷地が公園、広場、水面その他これらに類するものに接する場合においては、その公園、広場、水面その他これらに類するものに接する隣地境界線は、その公園、広場、水面その他これらに類するものの幅の二分の一だけ外側にあるものとみなす。
敷地が水面(川や池)、公園や広場などに接していると隣地斜線制限が緩和されます。
例えば隣が川だった場合、川の幅員の2分の1の場所に隣地境界があるとみなして隣地斜線を設定します。
これが川ではなく、公園や広場でも同じように緩和され、名称も水面緩和と呼びます。
隣地斜線の高低差緩和
建築基準法施行令では隣地斜線の高低差緩和について次のように記載されています。
建築物の敷地の地盤面が隣地の地盤面より一メートル以上低い場合においては、その建築物の敷地の地盤面は、当該高低差から一メートルを減じたものの二分の一だけ高い位置にあるものとみなす。
隣地の地盤面の方が1m以上高くなっている場合、隣地に対する日照、採光、通風への影響が減るので、制限が緩和されます。
地盤面の高低差から1mを引き、残りの2分の1の高さに地盤面があるとみなして隣地斜線を設定します。
式にすると次のようになります。
緩和地盤面=(高低差-1m)÷2
もし、高低差が1.6mだとすれば、
(1.6-1)÷2=0.3m
・・・で、実際より0.3m高い位置に地盤面があるとみなして隣地斜線を設定します。
北側斜線について
北側に建っている建物への日当たりを考慮し、南からの日照を確保するために建物の高さを規制した制限のことです。
その為、すべての地域に制限されている訳ではなく、特に住宅が建つことの多い、第1種及び第2種低層住居専用地域、第1種及び第2種中高層住居専用地域にのみ適用される法律です。
特に低層住居専用地域は言葉の通り、低い住宅の良好な住環境を守るための地域になっていますので、制限が厳しくなります。
ということは、低層住居専用地域に家を建てようとすれば、ある程度の日照は保証されているということです。
北側斜線制限の意味
北側斜線制限は北隣の敷地の住環境を良好に保つための高さ制限です。
家を建てる場合、自身の日当たりの事を考慮すると敷地の南側を空けて、できるだけ北に寄せて家を建てたいと考えるのが普通です。
しかし、北側の隣地境界ギリギリに高い建物を建ててしまうと、当然ことながら、北隣の日当たりは損なわれてしまいます。
その様な状況を防ぐために設けられたのが、北側斜線制限になります。
北側隣地境界線の一定の高さから一定の勾配を描いて、その範囲内で建築物を建てなくてはなりません。
なお、北側斜線制限が適用されるのは、次の用途地域です。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 田園住居地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
これ以外の用途地域には適用されません。
用途地域と北側斜線の制限の内容
第1・2種低層住居専用とおきおよび、田園住居地域
第1・2種低層住居専用地域 および、田園住居地域の用途地域では、斜線の起点と勾配は次のようになっています。
- 北側の隣地境界線上の高さ5mが斜線の起点になります。
- 基点から「1:1.25」の勾配を描きます。
なお、第1・2種低層住居専用地域、および田園住居地域では、絶対高さ(10mあるいは12m)が設定されているので、
それよりも高い建物は建てられません。
第1・2種中高層住居専用地域
第1・2種中高層住居専用地域の用途地域では、斜線の起点と勾配は次のようになっています。
- 北側の隣地境界線上の高さ10mが斜線の起点になります。
- 基点から「1:1.25」の勾配を描きます。
第1・2種中高層住居専用地域は絶対高さの制限はありませんが、
各自治体で高度地区などの制限を設けている場合が多いので、確認が必要です。
※各自治体により、自治体が高度地区を設定している場合は、北側斜線制限と高度地区の内、
厳しい規制の方が適用される事になります。
一般的には高度地区の制限の方が厳しくなっています。
北側斜線制限の緩和について
北側斜線制限には「道路緩和」「水面緩和」「高低差緩和」の3つの基本的な緩和があります。
それぞれ説明していきます。
北側斜線の道路緩和
北側に道路がある敷地では、道路の向こう側の境界に、北側斜線を移す事になります。
北側斜線制限は北隣の敷地に対する配慮なので、北隣の敷地境界が基点となります。
北隣の敷地との間に道路がある場合は、北隣の敷地の道路境界が北側斜線の基点となります。
この様な場合、一緒に道路斜線もかかってきますが、北側斜線と道路斜線の内、どちらか厳しい方が適用される事になります。
大概、道路斜線の方が北側斜線より厳しくなるので、北側が道路の場合は道路斜線が適用される事になるでしょう。
北側斜線の水面緩和
敷地の北側が水面(川や池)、または公園や広場になっている場合、制限が緩和されます。
例えば北隣が川だった場合、川の幅員の2分の1の場所に北側の隣地境界があるとみなして北側斜線を設定します。
これが川ではなく、公園や広場でも同じように緩和されます。
ただし、公園や広場であったとしても、なぜか名称は水面緩和です。
北側斜線の高低差緩和
北隣より自身の敷地の地盤面の方が1m以上低くなっている場合、北隣に与える日当たりの影響が軽減されるので、
北側斜線の制限が緩和されます。
北隣との地盤面の高低差から1mを引き、残りの2分の1の高さに地盤面があるとみなして、北側斜線を設定します。
高低差緩和の計算
式にすると次のようになります。
緩和地盤面=(高低差-1m)÷2
もし、高低差が2mだとすれば、
(2-1)÷2=0.5m
・・・で、実際より0.5m高い位置に自身の敷地の地盤面があるとみなして北側斜線を設定します。
まとめ
今回は斜線制限の「道路斜線」「隣地斜線」「北側斜線」の3つについてまとめてみました。
建築に関しての制限は斜線制限以外にも山ほどありますが
現在住んでいる家の日当たりや風通しはこうした制限によって確保されています。
新しく家を建てたいと考えている方は様々な制限について調べてから購入することをお勧めいたします。